近年、日本政府、国立の宇宙研究開発機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)、および民間の投資家が新興ベンチャー企業に投資するなか、日本の宇宙産業は新たな発展の兆しをみせています。スタートアップ企業の数が増加するなかで、このような投資が実を結び始めています。ここでは、グローバルな目標を掲げている日本のスタートアップ企業5社をご紹介します。
インフォステラは、地上局へのアクセスを整備することにより、人工衛星スタートアップ企業の規模拡大を支援します。同社が提供するプラットフォームは、「地上局用Airbnb」と呼ばれています。インフォステラが運用を開始したクラウド型プラットフォーム「StellarStation」は、地上局の非稼働時間を抱える地上局オーナーと地上局へのアクセスを必要とする人工衛星運用事業者をマッチングします。
同社は、UHF帯、S帯、X帯の運用局を持つ地上局のネットワークを拡大しており、アゼルバイジャンの人工衛星運用事業者であるAzercosmosやオーストラリアの地上局運用事業者であるCapricorn Spaceと提携しています。インフォステラは、2016年に設立され、Airbus Ventures、Sony Innovation Fund、三菱UFJキャピタルなどから累計1,150万ドルを資金調達しました。
「人工衛星運用事業者の主な事業は、人工衛星に関する計画、開発、配備、運用であり、地上局ネットワークの構築は面倒な業務です。人工衛星運用事業者は、必要以上のものの開発に貴重な時間を費やすべきではありません。地上局のネットワークを構築することで、インフォステラは人工衛星運用業者の事業拡大をサポートします」とCEO兼創業者の倉原直美氏は述べています。
倉原氏によると、同社はグローバルな事業展開を目指しており、来年中に米国オフィスを開設することで、米国の宇宙産業との関係強化に努めます。倉原氏は、AWS Ground Station、Microsoft Azure Orbitalを擁する巨大テック企業であるアマゾンとマイクロソフトが地上局運用に関心を示している点に期待を抱いており、インフォステラの地上局を利用することで、より多くの衛星データがクラウドに転送されるだろうと考えています。
GITAIの創業者兼CEOである中ノ瀬翔氏の、宇宙産業への関与はそれほど長くありません。中ノ瀬氏は以前IBMに勤務していました。その後、ヒューマンモビリティに関する安全およびコスト面での問題解決を目指して、ロボットを開発する個人プロジェクトを立ち上げた際、最初の会社を売却しました。さまざまな業界のニーズをヒアリングした結果、中ノ瀬氏は、ヒューマンモビリティに関して安全およびコスト面で最大の課題を抱えているのは宇宙産業であることを認識し、2016年に宇宙用作業ロボットのスタートアップ企業であるGITAI社を設立しました。
GITAIは、JAXAと密接に連携し、JAXAの模擬国際宇宙ステーション「きぼう」モジュールに搭載されたロボットの実証実験を実施しました。また、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」のロボット化に関するガイドライン策定のための提携や、宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)協定も結んでいます。現在、GITAIはISS上でのロボット実証実験に向けて、Nanoracksと共同で取り組んでいます。
中ノ瀬氏は、次のように述べています。「来年の実証実験は、GITAIの顧客である宇宙研究開発機関や宇宙関連企業に対して安価で安全な作業手段を提供するという当社の取り組みにおいて、重要な一歩となるでしょう。ロボット開発のプロセスを通じて、当社はISSに対応したロボットの開発に必要なスキル、ノウハウ、経験を身に付けていきます。ロボットの搭載後は、微小重力環境下での技術の成熟度を証明し、潜在的な顧客の注目を集めることになるでしょう」
中ノ瀬氏によると、GITAIはすでに民間の宇宙企業から宇宙ロボットの研究開発を受注しており、2020年代半ばまでにGITAIのロボットを宇宙空間における実際のミッションで稼働させることを計画しています。
アストロスケールは、寿命を迎えた人工衛星の除去を行う終末処理サービス、デブリ(宇宙ごみ)除去サービス、人工衛星寿命延命サービスを通じた持続可能な宇宙空間の商業化を使命としており、成果を挙げています。同社は、世界5か国にオフィスを構え、JAXA、OneWeb、東京都と提携し、世界中の宇宙に関する法規制に影響を与えています。アストロスケールは、2013年の設立以来、日本で最も資金調達力の高い宇宙ベンチャー企業になりました。最近では、5,100万ドルの投資ラウンドを終了し、累計調達額は1億9,100万ドルに達しました。
アストロスケールは現在、デブリ捕獲・除去実証衛星「ELSA-d」の打ち上げを控えています。ELSA-dは、終末処理サービスを円滑化し、寿命を迎えた衛星や、故障した衛星を軌道上から大気圏に運び、再突入時に燃焼させるよう設計されています。同社は今年、買収を通じて、静止軌道(GEO)衛星の寿命延命市場にも参入しました。
CEO兼創業者の岡田光信氏によると、アストロスケールは宇宙空間の清掃に関する議論を牽引しており、同社の技術は業界に新たなバリューチェーンをもたらすとともに、必要とされる規制整備への道を開いています。同氏は、デブリ除去について次のように述べています。「2年前は、誰も既存デブリに注意を払っていませんでした。問題は明白であるにも関わらず、誰も行動を起こしたくなかったのです。実績のある技術が無ければ、誰も規制を整備することはできません」
Synspectiveは、名だたる地球観測(EO)企業の一員となることを目指しており、夜間や曇天でも画像撮影が可能な合成開口レーダー(SAR)でニッチ市場を開拓しています。日本で最も資金調達力の高いスタートアップ企業のひとつである同社は、2019年にシリーズAラウンドを完了し、1億ドル弱を調達しました。
Synspectiveは、今年、Rocket Labと提携し、SAR衛星初号機「StriX-α」の打ち上げを予定しています。この衛星は、Synspectiveが計画している30のSAR衛星から成るStrixコンステレーション(衛星群)の初号機となります。これらのSAR衛星は、地理空間ソリューションを提供するよう設計されています。同社は、2022年までに6機の衛星の打ち上げを計画しています。
CEOの新井元行氏は、Synspectiveのコンステレーションによって、世界中の災害リスク管理を可能にするサービスやデータを迅速に提供することを目指していると述べています。同氏によると、Synspectiveは、日本および海外で、商業契約と政府契約の両方を目指しています。
新井氏は、次のように述べています。「当社のSARソリューションが第一に重点を置いているのはアジア太平洋地域であり、そこから徐々に拡大していく予定です。当社のSARデータビジネスは、当初から世界中のクライアントのニーズに応えることを目的としています」
スカイゲートテクノロジズは、今年設立された、サービス型地上局プラットフォームを手掛けるスタートアップ企業です。同社は、日本において、人工衛星運用事業者が地上局の利用計画を立てる際に利用可能なプラットフォーム「Skygate」を備えたクラウド型地上局の開設に取り組んでいます。2021年のサービス開始を予定しており、先日、慶應義塾大学を母体とするベンチャーキャピタルである慶應イノベーション・イニシアティブから金額非公開のシード投資を受けました。
創業者兼CEOの粟津昂規氏は、自衛隊で衛星通信を担当した後、フィンテック系スタートアップ企業に勤務しました。その後、衛星データの転送の改善を目指して、スカイゲートテクノロジズを立ち上げました。同社は、データの取り扱いを重要視するリモートセンシング企業(人工衛星から遠隔観測を行う企業)を主な対象顧客としています。
スカイゲートテクノロジズは、最初の地上局を日本に開設する予定で、その後、北米、オーストラリア、北アフリカでの開設を計画しています。粟津氏は、日本は地理的に極東に位置するため、地上局のダウンリンク(衛星局から地上局への通信)にとって理想的であり、米国企業は日本の地上局運用事業者との提携に意欲的であると述べています。